染色の世界で長年活躍されている染色家の柚木沙弥郎さん。
2022年に生誕100年を迎え、東京・駒場の日本民藝館で生誕100年柚木沙弥郎展が開催されました。
駒場東大前駅からほど近い、駒場公園のすぐ隣にある日本民藝館。
東大のキャンパスと日本近代文学館も近くにあり、文教地区の閑静な住宅街の中に独特な存在感を放っています。
日本民藝館は1936年に民藝運動を提唱した柳宗悦を中心として設立されました。
ここには柳宗悦らが集めた日本各地や朝鮮半島などの「民藝」いわゆる民衆の生活の中で使われている美しい道具の数々が蒐集されています。
民藝とは庶民の暮らしの中にある道具に用の美を見出し、かつては顧みられてこなかった道具そのものにある美しさに目を向けていく運動です。
有名な作家の作品だからいいものだとか、作品を鑑賞する際に先入観や前提知識をもって見るのではなく、純粋にそのモノがもつ美しさやゆたかさを感じ取る。
無名の職人たちの繰り返される仕事の中に、毎日使われる雑器の中に、使われるためにある道具の中にも数多くの美が宿っています。
そのような考え方に共感して、数年前から日本各地にある民藝ゆかりの地を巡るようになりました。
今回、染色家の柚木沙弥郎さんの特別展が開催されると知り、約2年ぶりに日本民藝館に訪れました。
柚木さんは柳宗悦の民藝思想に共鳴し、染色家の芹沢銈介に師事。
戦後すぐの時代から70年もの長きに渡って活躍されてきた方です。
この日本民藝館は柚木さんにとっても原点ともいえる場所で、多くの所蔵品を蒐集しています。
柚木さんの染色は明るく温かい色合いや、わくわくするような幾何学模様の作品も多く、どれも見ていて元気な気持ちになれる気がします。
1階から2階へと上がる吹き抜けの階段にも大きな作品が飾られていて、室内のひんやりとした空気もやわらいでいるように感じました。
1階にある日本各地、朝鮮半島の民藝を見て回ったあとは、2階の大展示室へ。
そこにある作品展示がとても印象的でした。
現代的な明るい模様の柚木さんの作品と、アフリカやアジアの原始的なオーラをまとったオブジェが隣り合って並んでいるのです。
時代も国も手法もちがうモノなのに、全く混沌とした印象はなく、かといって必要以上に調和しすぎることもなく、同じ空間をそれぞれの存在感で満たしています。
余計な先入観を持たずに作品を見られるよう、必要以上のキャプションがないのも民藝館ならではかと思いますが、とてもおおらかで、カテゴライズされていないのびのびとした寛容な展示空間が心地よいと感じました。
また、長年の活動の初期作品から現在に至るまでの作品を一堂に見ることができたという点でも、大変貴重な機会となりました。
100歳を迎えてもなお、意欲的に創作活動を続けられている柚木さん。
その作品づくりにはわくわくする気持ちが欠かせないとインタビューで語られています。
ものづくりを楽しむ姿勢と、そこから生まれた作品は、見ているこちらまで楽しい気持ちにさせてもらえる気がしました。