アーツ・アンド・クラフツ展でみる美しいタイルの話

愛知県陶磁美術館で開催中の「アーツ・アンド・クラフツとデザイン-ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで-」
ここでは19世紀のイギリスで流行した工芸やデザインの運動について触れることができます。

ウィリアム・モリスといえば、日本でも壁紙やテキスタイルがよく知られていて、根強い人気があります。

インテリアやデザインなど、日頃の生活を豊かにするために活動していたウィリアム・モリス。
「モリスとド・モーガンのタイル」の講演会を通じて知ることのできた、芸術性の高いタイルのお話をお届けします。

日本のタイル誕生の歴史はこちら↓

アーツ・アンド・クラフツ運動とは

アーツ・アンド・クラフツ運動とは19世紀にイギリスでウィリアム・モリスが主導した美術工芸の運動です。
産業革命後のイギリスでは機械化による大量生産が可能になり、安価なモノが売られるようになっていました。
生活が便利になる反面、安価で粗悪なモノも出回り、それまで手仕事を担っていた職人の仕事も顧みられなくなります。

そうした状況を批判し、中世のギルドの手仕事に立ち返り、生活と芸術を一体化しようと始まったのがアーツ・アンド・クラフツ運動でした。
この運動は19世紀後半には世界各地にも広がり、のちに日本で柳宗悦が牽引する民藝運動にも少なからず影響を与えていきます。

デザイナーであるモリスはモリス商会を立ち上げ、仲間とともに装飾された本や壁紙、家具、ステンドグラスなど、生活を豊かに彩るインテリア製品を数多く残しました。
今回の展示ではそうしたウィリアム・モリスの作品をはじめ、アーツ・アンド・クラフツ運動によって生まれた数々の作品を見ることができます。

イギリスのヴィクトリアン・タイルの時代

2月12日に陶磁美術館で開催された「モリスとド・モーガンのタイル」講演会では、イギリス文化や芸術を長年研究している吉村典子先生(宮城学院女子大学教授)のお話を伺いました。

講演会では実際にイギリスを訪れたときに撮影した建築やタイルの写真をたくさん見ることができました。
いつか行ってみたい・・・!

ヴィクトリアン・タイルが花開いた時代背景や、その後の日本のタイル文化への波及が興味深かったので、とくに印象的だった部分をお伝えしたいと思います。

産業革命と都市の出現

産業革命後の19世紀のイギリスでは、つぎつぎと工業都市が発展していました。
工業化が進み、都市には労働者があふれ、スラム化するところもありました。

ゆとりのある中産階級の中には環境のよい場所を求め、緑のある郊外へと移る人も現れはじめます。
産業革命によって工業化が進み、都市化した結果、郊外が生まれたのです。

吉村先生のお話によると、労働者階級の集合住宅には装飾的なタイルはほとんどないそうですが、郊外の高級住宅には装飾的なタイルが建材として取り入れられているとのこと。

家に使われているタイルによって、当時の家主の暮らしぶりが見えてくるなんておもしろいですね!

ヴィクトリアン・タイルの特徴

ヴィクトリアン・タイルの時代には2つの特徴がありました。

さまざまなタイルの出現

メーカーの生産技術が向上し、機械が導入される一方で、手工業的なものづくりに立ち返る動きが出てきました。

手仕事ならではの柔軟で繊細なデザインのタイルも数多く生み出されていきます。

郊外住宅に美しいタイルが使われる

郊外に住む人が増えたことで、建材としてのタイルの需要も増加していきました。
この頃の建築には美しいヴィクトリアン・タイルが使われていて、今でも見ることができます。

もっと古い時代の貴族の屋敷にはこれらのタイルは使われていないので、機会があれば見比べてみたいですね。

ヴィクトリアン・タイルと日本のタイルのつながり

マジョリカタイルのはじまり

写真はイメージです

マジョリカタイルは、色鮮やかな装飾が目を惹くタイルです。
錫釉の開発によって、色鮮やかな表現ができるようになりました。
スペインのマヨリカ島で生まれた「マヨリカ焼」の多彩な表現が伝わり、イギリスではヴィクトリア朝の時代にマジョリカタイルが花開きます。

マジョリカタイルはレリーフの内側に釉薬を置いて模様を表現していくため、立体感があるのが特徴です。
高級陶磁器メーカーのミントンやウエッジウッドでも多くのマジョリカタイルが生産されました。

和製マジョリカの誕生

日本でも古くからタイルのルーツである敷瓦などがありました。
明治期に入り、西洋文化が入ってくると、マジョリカタイルも知られるようになっていきます。

マジョリカタイルはデザインの美しさだけでなく、耐火性や耐水性などの機能性にもすぐれていました。
建材としての需要も高く、国産のタイルの生産も進められていきました。

大正時代~昭和10年代には日本でもマジョリカタイルを模倣した「和製マジョリカ」が広まりました。
残念ながら建物の解体とともに失われてしまったものもありますが、京都のさらさ西陣や、船岡温泉などで当時の和製マジョリカを見ることができます。

1922年には日本で初めて「タイル」という名称に統一されました。

タイル百年祭の様子はこちら!↓

展覧会情報

愛知県陶磁美術館 公式サイト
アーツ・アンド・クラフツとデザイン-ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで-
2023年1月28日(日)~3月26日まで

高岡市美術館 公式サイト
ウィリアム・モリス 英国の風景とともにめぐるデザインの軌跡
2023年3月18日(土)~5月7日(日)

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