日本のタイル100年―美と用のあゆみ展見学レポート

2022年4月12日は日本で「タイル」という名称に統一されてちょうど100年の日。
タイル名称統一100年を記念して、2022年には多治見でタイル百年祭も開催されました。

今回は以前ご紹介した日本のタイルの歴史をさらに深掘りするため、東京・小金井市の「江戸東京たてもの園」で開催されている「日本のタイル100年ー美と用のあゆみ」を見学してきました。

建材として活躍している焼きものの歴史に触れることができました。
明治期以降の日本のタイル文化の広がりについてご紹介します。

日本でタイルが普及するまで

文明開化と洋風建築

タイルは古代エジプトが発祥と言われ、その後は中近東、ヨーロッパで広まり、耐久性や汚れの落としやすさから暮らしの中で活用されてきました。
日本でも、寺社仏閣の瓦や床に貼る敷瓦など、タイルという名称が付く前からその源流は存在していました。

日本において、現代のタイル普及のきっかけとなったものが明治期の文明開化です。
西洋文化が広まるなかで洋風建築が数多く建てられ、建材としてのタイルのニーズが高まります。
19世紀末~20世紀初頭にはタイルの生産力を高めるため、国内での量産にも取り組み始めました。

生活様式の変化

大正時代になるとスペイン風邪の大流行もあり、人々の衛生観念が高まっていきました。
台所やトイレなどの水回りが改良され、汚れが落としやすいタイルはここでも活用されていきます。

とくに真っ白なタイルは見た目も清潔感があり、当時の最新式の台所や浴室などに積極的に取り入れられました。

関東大震災と煉瓦建築

1923年9月1日、関東大震災が発生。東京一帯に甚大な被害をもたらしました。
浅草のシンボルでもあった浅草十二階(凌雲閣)も上層部が崩壊し、その後爆破解体されることとなります。

明治期以降は西洋風の煉瓦建築が多く作られ、火事の多い東京では延焼を防ぐというねらいもあったようです。
しかし、震災によって煉瓦を躯体に使った建物の多くが倒壊し、耐震性の低さが問題視されるようになっていきました。
その結果、関東大震災以降はより耐震性の高い鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物が増えていきます。

震災以降には、鉄筋コンクリート造の表面をタイルで装飾した建築物も作られていきました。
当時はひっかき傷のような溝が特徴のスクラッチタイルが流行していたそうです。
明治村に移築されたフランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルでもスクラッチタイルを見ることができます。

タイルの名称はなぜついたのか?

日本国内では、タイルという名称に統一される前は「化粧煉瓦」「敷瓦」などのように、用途に合わせて名前が使い分けられていました。
しかし、タイルの需要が高まり市場が大きくなると、複数の名前があることで混乱を招くようになってしまいました。

そこで、1922年4月12日の「平和記念東京博覧会」の全国タイル業者大会にて、これまでさまざまな名前で呼んでいたこれらの名称を「タイル」に統一することが定められました。

これまで「装飾煉瓦」「腰瓦」など名前を見れば用途がわかったため、その点においては多少の不便もあったようですが、タイルという名称が国内で統一されたことによって、タイル業界全体がさらに発展するきっかけにもなりました。

まとめ:美術工芸的なタイルが気になる

タイルが暮らしに活用され国内市場が発展していく中で、工業製品として規格が標準化されていきます。
しかし、タイルはただ「用」のためだけに画一化されていったわけではなく、美術工芸的な個性のあるタイルも作られていったのです。

京都の泰山製陶所では、手工芸品のようにひとつひとつの釉薬の表情が異なるタイルを生産していました。
ここでは布の凹凸がある「布目タイル」や釉薬の窯変が美しいタイルなど、手工固有の美にこだわったタイルが生み出され、皇室の邸宅など社交や迎賓の間を彩りました。

泰山タイルは見る角度によって表情が変わる窯変の色合いがとても美しく、実物をたくさん見てみたいと思いました。

いまでも泰山製陶所があった京都を中心に当時のタイルが見られる建物が残っているので、機会があったら見てみたいと思います。
今回の展示を通して、何気なく使っていた身近な建物もタイルという切り口で再発見することができるのではと感じました。

展覧会・タイル情報

江戸東京たてもの園

日本のタイル100年-美と用のあゆみ
2023年3月11日〜8月20日
江戸東京たてもの園は関東の貴重な建物を移築展示している施設です。ぜひ時間のあるときにゆっくりと回ることをおすすめします!

INAXライブミュージアム

明治村

移築された帝国ホテルなど、当時の意匠性の高いタイルが見られます。

参考:日本のタイル100年 美と用のあゆみ図録(INAXライブミュージアム発行)

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